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124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:06:47.07 ID:yGMN8B1w0

寝床から出てきた妹を俺の背中で見つけた祖母はにこやかに言った。
お盆から食卓におかずが移されて朝食が並んでいく。
深い器に盛られた南瓜の煮付けは、それを覆うように甘く味付けされた挽肉が掛かっていた。

妹が目を輝かせて見つめているが、それは俺の皿で妹のは隣のやつだ。
「お口の中でもさもさするんだもん……」
指摘されて視線を動かすと、あからさまにしょぼくれる。
南瓜のサイズはあまり変わらないから、おかずの良し悪しを挽肉の量で判断したのか。

皿を取り替えてやると嬉しかったのか背後から首元に回された腕の力が強まった。
「そうそう、ご飯食べ終わったらお爺さんがお話しすることがあるって呼んでいましたよ。畑のことかしらね?」
「……かもしれないな。継いでほしそうだったし」

129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:15:40.97 ID:yGMN8B1w0

あと25
このペースでさるにかかってると3時間かかりそう。


130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:18:35.55 ID:24YqFh+g0

あと25ならちょい雑談はじめたらいけるかも
支援


131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:20:17.93 ID:yGMN8B1w0

>>130
サンクス


「お兄ちゃん継ぐの?」
「まさか」
味噌汁を一口飲んで会話を切る。

あの頑固で風変わりな祖父が跡継ぎを望んでいるとは思えない。
長いこと匿ってもらっていたのだから、そろそろ理由を聞かせろということか。
呼び出した理由を祖母に伝えなかったのも祖父なりの配慮なのだから感謝すべきだと思っているけれど、
本心は今まで通りに何も詮索しないまま放し飼いしてほしかった。

これだけ長居をしているのだから我儘が非常識なのは重々承知だ。
「お兄ちゃん?」
強張った表情を妹が心配そうに覗き込んでくる。
心配はいらないと頭を撫でてやる。


132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:22:48.84 ID:yGMN8B1w0

もしかして俺が頭を撫でてやるのは妹を落ち着かせる為ではなく、すぐ傍に妹がいるからと俺が安心したいだけなのかもしれない。
「今はどうでもいいか」
自嘲気味な解釈を忘れるために煮付けの皿を持ち上げて挽肉だけをご飯の上に乗せる。
訝しげに手元を見つめる妹の皿に南瓜だけを放り込むと、ひうっと小さな悲鳴が聞こえてきた。
特に気にすることなく朝食を口の中にかきこむ早食いで朝食を終わらせ、ショックで固まる妹の口に南瓜をふた切れ突っ込んでから祖父のいる庭に向かった。

「日が暮れてもしばらく帰ってくるな」
一言だけで要件を済ませ、祖父は再び作業小屋の中をいじくり始めた。
「それだけ?」
「だけの方がいいだろ」


134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:25:42.14 ID:yGMN8B1w0

俺に背中を向けたまま整理の手を休めない。
「祖父ちゃんは俺たちに聞きたいことはないのか?」
「んなもんわしらが知ったところで何ができるんだ。勝手にしてろ」

いつも通りの喧嘩口調で遠回しに帰れと俺を突き放す。
「誰がくる?」と訊くと「知らん」としか答えてくれないので諦めることにした。
無視して家に入ると妹が涙目になりながら懸命に口を動かしている最中だった。

泣くほど旨いか。祖母ちゃんが喜ぶな。
祖父に出て行けと言われても、俺の知っている遊び場なんて一つだけだ。
妹が歓迎するかしないかはさておいて
「ただ……雨なんだよなあ……」


136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:28:16.02 ID:yGMN8B1w0

雨の登山は初めてだった。
しとしと降り注ぐ雨を傘が受け止めて、足元に絶え間なく滴を落とす。
滑りやすくなった石段に気を払いつつ、妹と二人でいつもの川を目指した。

家を出てからずっと左右に首を傾げ続ける妹だが、なんで登山をしているかは触れない。
気になりはしているんだろうけれど、そこまで興味はないといった風だった。
一度も弱音を吐かなかった妹の頭に手を置いて撫でようとしてやると、自分から頭を小刻みに振った。

葉っぱが雨を完全に凌いでいるらしく、俺の特等席となった太い樹木の根本には一粒の雨も降ってきていなかった。
川を正面に見れる位置で腰を下ろすと、妹も隣に座った。
出るときに祖母から夕食分も含むおにぎり入りのバスケットを受け取ってしまったけれど、日が暮れるまでには山を下りた方がいいだろう。


139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:30:54.89 ID:yGMN8B1w0

整備されているけれど、当然ながら照明まで備わっているわけではない。
俺が転ぶ分には一向に構わないが、少し抜けている節がある妹に暗闇の中で濡れた石段を歩かせるのはとても危険だ。
雨が川に吸い込まれる音を聞きながら、日暮れ後の暇潰しを考える。
というか日中はずっとここにいるのか?

「お兄ちゃんがいるから楽しいよ」
躊躇いなくそんなことが言えちゃう妹がかっこいい。
俺ならば迷わず退屈の二文字で即答していた。

会話のネタが思い浮かばず、二人して降り注ぐ雨を眺め続ける。
雨の音に耳を傾けただぼーっと時間が過ぎるのを二人で感じるだけ。
妹が言うように俺が毛嫌いしていただけで、これもけっこう乙なものかもしれない。


143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:40:59.48 ID:yGMN8B1w0

「狭いから」
並んで座っていた妹がそう言って距離を詰めて体を寄せてきた。
「寒いから」
そして肩に頭を乗せてくる。

「寒くはないだろ」と言おうとしたところで、妹が触れている左腕から小さく振動が伝わってきた。
「……確かに冷えるな」
「うん」

冷えるからと上着を着せてやるが、たぶん震えは止まらないだろう。
今の妹なら容赦なく照りつける直射日光を浴びてても寒いと言いそうだった。
背中から反対の肩に手を伸ばして抱き寄せてやると、そのまま俺を見上げる形で体を倒して太ももに頭を乗せてきた。


148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:43:57.33 ID:yGMN8B1w0

「あー、暖かいかも」
俺の腰の裏に手を回した妹が腹に顔を押し付けてきたので、飼い猫を可愛がるように背中を撫でてやった。
雨を凌ぎ始めて何分経ったくらいだろうか。
「お兄ちゃん。ごめんね」

妹の体から手を離してやると、逆にひんやりと冷たくなった手で首を掴まれた。
即行の一発芸だったらユーモアが溢れていると思う。
その手にはまだ力が入っていないので逃げるように動かしてやれば抜け出るのも容易だ。
でも、俺にはそんなことするを気がない。

『たぶん躊躇う』
縁側での妹との問答で返ってきた言葉を思い出す。
敢えてその後に続く言葉は聞かなかったし、それは聞くまでもなかった。


151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:46:05.24 ID:yGMN8B1w0

少しだけ絞まる手で『躊躇う』の後に続く結果の答え合わせと自己採点をした。
その場で答えていれば妹からは笑顔で満点の花丸が貰えたに違いない。
頭上を見上げると、隙間なく重なり合った葉が地上と空を完全に遮断してくれていた。
最後が晴れない空ならばべつに見えなくてもいいし見る気も起きない。

締め付けが強くなり、飲んだ唾が咽喉を通る感触を感じた。
息苦しさが出てくるが、それよりも押し込まれた親指が痛かった。
妹の震えが止まっているのは、すでに結末が見えているからだろう。

妹が出した結論に抵抗することなく身を委ねて幹に背を預けたまま目を閉じて弾かれる雨音を静聴する。
葉を揺らして岩に弾け川に波紋を生む音は、安らぎを感じさせる心地のいいものだった。
残る不安をかき消すために太ももの上の頭に手を置いて横に一往復させると、それを合図に一気に締め上げられた。


157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:48:14.21 ID:yGMN8B1w0

それで満足したらしく、体を起こしてそのまま首の後ろに腕を回して、
「冗談だから」
「ユーモラスだった」
「冗談……だから……」

正面から俺の肩に頭を乗せてそう何度も自分に言い聞かせるように呟いていた。
どうして抵抗しなかったかは訊かれない。
訊かれるまで俺も答えない。
久々に妹を抱きしめたとき、妹の体はまだ震えていた。


161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:50:22.98 ID:yGMN8B1w0

14 曇天

「お腹空いたよね?」
疑問形なのに俺の返事を待たずして妹は自分膝の上に置いていたバスケットを開けた。
中に入っていたのは愛情という名の腕力で強引に詰められたおにぎりたちだった。

「……」
「……」
ラップが幾重にも捲かれていなかったら、バスケットが揺さぶられている間に更なる型崩れを起こして大惨事になっていたことだろう。
お前は悪くないぞと慰めるが、それでもごめんねと謝られた。

笑顔の祖母がおにぎりを力付くで敷き詰める姿を思い浮かべる。
けれども日頃の雰囲気とあまりにもミスマッチすぎてどれも定着しない。
「お祖母ちゃん……」
妹も似たような想像をしていたらしい。


164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:52:49.74 ID:yGMN8B1w0

素朴な味を大事にしていそうな祖母がこれほどまでの豪快さを持ち合わせていたのは、こっちに来てから知った一番衝撃的な事実かもしれなかった。
ぎりぎり留めている原型を壊さないようにと妹が慎重に取り出す。
まるで時限爆弾の処理を任されているような真剣な面持ちで一つ目のおにぎりを救出した。

圧迫されたご飯の粒が押し潰されてラップにこびり付き、先走った具の焼き鮭が「俺を見ろ」と自己主張している。
「……これお兄ちゃんの」
「兄想いでびっくりだ」
顔を背けて腕だけ俺に伸ばしておにぎりを手渡された。

おにぎりは宝くじの当選番号を確認する瞬間に似たドキドキ感が醍醐味だというのに完全にこれでは台無しだ。
「ハズレ……」
二つ目のおにぎりを抜き出して妹が悲しげに呟く。


165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:55:21.41 ID:yGMN8B1w0

それは確かに紛う事無くハズレのおにぎりだった。
かつて具であったと思われるイクラの粒々が壊滅的な被害を受け、白米に汁をこびり付けるとてもグロテスクな二次災害を引き起こしている。
「おにい……ちゃん……」
涙目で交換を要求されるがそれはNG。

俺だってそんなものを咀嚼する勇気はない。
申し出を断固として拒否すると、はらはらと涙をこぼしながらおにぎりに噛み付き、
喉の奥から苦しげな呻き声を絞り出しながらお祖母ちゃんが詰め込んだ愛を深く噛み締めていた。

おにぎりとは呼称できない何かを3つ程平らげて時間を確認しようとポケットに手を入れると、どうやら携帯電話を家に置いてきてしまったらしい。
「時間分かるか?」


166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 19:58:36.53 ID:yGMN8B1w0

首を横に振られた。
「だよな」
携帯電話も腕時計も持っていない妹に時間を訊いたのは駄目元だ。

運が良ければ何かあるかもなんて思ったけれど、さすがに無から有は生み出せない。
帰ってくるなと言いつけられているが都会住みだった人間は山での暇潰しを知っているわけがない。
山中の散策も考えたてみたものの、たぶんこれ以上の散策は妹がすぐに音を上げてしまうだろう。
「晴れは……しないか」

少しでも晴れ間が見えることに期待をして空を眺めてみた。
木々に囲まれた部分は全てどんよりとした厚い雲で覆われていた。
急な気変わりでもなければしばらくはこの調子で振り続くと判断して、ちょうど良く足元に転がっていた小石を手に取って投げる。
水粒を弾かせて石が川に沈んだところで思いついた暇潰しは終了した。


168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 20:01:13.57 ID:yGMN8B1w0

妹は俺の行動で新しい時間潰しを発見したようで、石を持ち上げてピラミッド状に積み――
「縁起悪いからやめろ」
「ああっ!!」
蹴飛ばして程よく積み上がっていた小石の山を崩してやった。
生き地獄な状態にあるのは認めてやるが、そのお遊びは認めない。

雨雲が薄れ、雲の切れ目から夏を感じられたのはすでに時刻も夕方近くになった頃合いだった。
山道の石で舗装された階段で妹が足を滑らせないように手を引いて先導する。
「失敗だったかもな」
「なにが?」


173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:03:58 ID:yGMN8B1w0

「山に来たの」
「そんなことないよ。楽しかったもん」
妹が貸していた腕に抱き付いてきたので歩きにくくなる。
心配の種だった妹に最後までそう言って貰えると悪い気はしなかった。


「ここで待ってろよ」
妹を家の裏の茂みに潜ませて俺は家に戻った。
自宅裏から表の道に回るが車などは見当たらず、今のところは誰かが訪ねてきている様子はなかった。

開きぱなしの玄関から顔を覗かせて中を確認すれどもやはり来客がいそうな気配はない。
玄関が開きっぱなしになっているのは日中ならば雨天曇天晴天いつものことなので気にも留めない。
この家だけだけが特別不用心というわけでなく、ここらへん一帯ならどこでも同じだ。


177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:06:32 ID:yGMN8B1w0

他の家の人に用事があれば、玄関に入り大声で呼ぶのがこの地域での常識らしい。
都会ではありえない非常に危機感に欠けた生活様式だ。
玄関には来客者らしき靴が見当たらないので、もしかしたら昼間のうちに俺と妹が外すべき用事は済んでいかのかもしれない。

靴を脱いで廊下に上がり祖父母を探す。
もうこの時間帯ならば祖母が夕飯の下ごしらえを始めていてもおかしくないのけれど、台所にその姿はなかった。

「ここに居たのか」
居間にもなかった祖母は、寝室の扉を開けると布団も敷かずに祖父と一緒に畳の上で横になっていた。

ぎしりと畳みを踏みしめて足音が近寄ってくる。
「ここに居たのか」とは祖母を見つけた俺が言ったわけではない。
久しぶりの肉親の声に背筋が凍えた。


180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:09:05 ID:yGMN8B1w0

「仕事が休みのたびに警察に呼び出されてまともに心が休まる日はなかった。今日まではな」
見せたことのない雰囲気に気圧されてたじろぎ、一歩下がる
「妹はどこだ?」
赤い滴を滴らせた包丁を手にして父親がそう訊ねてきた。


腹部を蹴飛ばされて壁に強く体を打ち付ける。
激しい鈍痛に堪えていると襟首を掴まれて部屋の真ん中に投げ飛ばされた。
「妹がどこにいるのか聞いてるんだよ。さっさと教えろ屑が!」
痛む体を海老のように折っていると、続けざまに蹴りが鳩尾に叩きこまれた。
「か……っ!!」


183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:11:35 ID:yGMN8B1w0

重い激痛に一時的に呼吸が止まる。
「人の顔に泥塗るようなことばっかしやがって!! 出来損ないのガキが親に向かって楯突くんじゃねえ!!」
痛みで腹を抑えていた腕ごと再び同箇所に蹴りを入れられる。

体の全体が苦痛に喘ぎ思わず身を捩った。
「お前はまだまともな方だとは思っていたけどそれも大間違いだったな」
情けなくも床に仰向けに寝そべって父親を見上げる。

「これ以上痛い思いするのが嫌だったら教えろ。妹はどこだ?」
脇腹を正面から踏みつけながら冷たい視線で俺を見下ろしていた。
体験したことのない恐怖に口を割りそうになったが、寸前で踏みつけていた足の圧が増して呻き声に変わってくれた。
痛みの刺激で脳が少しだけ冷静さを取り戻して少しだけ父親に感謝する。


188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:16:42 ID:yGMN8B1w0

「お前らは自分のした過ちを咎められるのを恐れ逃げ出した。本当に都合がよかった」
「がっ! ……くぅっ!!」
加重に歯を食い縛って耐え凌ぐ。

「警察にもどこに行ったかなんて話してないしな。兄妹ともどもそのまま行方知らずの方が気楽でいいだろ。幸い近場には山がある」
西日を浴びた包丁が怪しく光を反射させた。
そこまで考えていたなら余計に居場所なんか教えられない。

罪もなくして煉獄の世界で怯える妹を救いたくて逃げ出したのに、不幸だけを味合わせ地獄に突き落とすなんてのは俺が許さない。
「……どけろよ」
「なら言え」

「どけろつってんだよ!」


192: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:20:06 ID:yGMN8B1w0

踏みつける足を掬うように蹴り飛ばして父親の態勢を崩す。
予想をしていなかった反撃に無様に尻から床に転倒するが、俺はそのまま父親を押し倒し組み伏せた。
体に走る違和感に顔を歪ませるが、怯んでいられる時間的余裕は無い。

包丁を握っている手を捻り上げて手元から離させる。
そして引き抜いた包丁を後方に投げ飛ばすが、奇襲が通じたのはここまでだった。
すぐさま下腹部の刺し傷に膝で蹴りを叩きこまれ、力任せにマウンドを取られてしまった。

もう対抗できる余力は残っておらず、父親が何かを吠えながら咽喉を両手で強く締め上げてきた。
すでに酸欠と激痛で視界がぼやけ始め、耳から入ってきた音も原型を失うほどに形を崩しながら頭の中で何度も反響した。
せめてもの抵抗として締め付ける手を引き剥がそうとするが、父親の腕に触れたはずの指先にはその感覚がなかった。


195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:25:29 ID:yGMN8B1w0

本格的に視界が白み始め、暴れる足にも力が入らなくなったとき

ドスッという重たい振動と共に、父親の体が揺れた。

父親の背後に目をやると、そこに立っていたのは冷たい目をした妹だった。
家の裏に隠れさせていたはずの妹は父親の背から突き立てた包丁を引き抜く。
「やめろ!」
再び左腕を振りかざした妹に向けて叫んだはずの声は咽喉の奥で掠れ、出てきたのは勢いを失った呼吸音だけだった。
そして、俺はその包丁の行方を見届けるよりも先に混濁とした意識が黒い霞の中に深く沈んでいった。


198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:27:54 ID:yGMN8B1w0

15 エピローグ

本格的に夏が始まってきました。
じりじりと騒々しく鳴く蝉は日毎に増え、今日も朝から無理矢理起こされてしまいました。
まだ眠い目を擦りますが、二度寝は気温と蝉と東日が許してくれませんでしたので、不満を飲み込んで断念します。
お兄ちゃんが可愛いと言ってくれたお祖母ちゃん譲りの白いワンピースに身を包みました。

敷いてある一人分の布団を綺麗な三枚折りにして部屋の隅に置いて朝の支度を整えたところで今日もお仏壇に朝のご挨拶をします。
お祖父ちゃんが鉄のぶつかり合う音が嫌いだと言うので、今回も鉢を鳴らさずにお線香だけで我慢です。
緑色のお線香の真ん中を指でつまんで半分にへし折り、蝋燭の火で先端を灯しました。

網戸も開けた縁側から涼しい風が入ってきて私の髪と立ち上る煙を靡かせました。
黙祷と一緒に手を合わせてしばらく静かに時間が過ぎるのを感じ、目を開けて一礼します。
ご挨拶を終えて朝食の席に向かうと既に食卓にはおかずが並んでいました。


200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:29:51 ID:24YqFh+g0

どうなったんだろ・・・


203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:30:25 ID:yGMN8B1w0

お茶碗に盛られた白いご飯の前に座って「いただきます」と手を合わせます。
炊き立てご飯を堪能しながらテレビを点けるとニュースキャスターが最近起きた事件を読み上げていました。
「よく見ながら食えるな」
「だってニュースだもん」
これはべつにお祖父ちゃんに『ながら食べ』を注意されたのではありません。
点けたテレビがたまたま前の事件を髣髴させる報道をしていたからでした。


お父さんを包丁で刺した後、それでもお兄ちゃんから手を離さなかったのでもう一度刺そうと左手を振りかぶりましました。
ですが、騒ぎを聞き付けた近隣の方がもう部屋の近くにまで来ていたようで、取り押さえられてしまいそれは敢え無く失敗しました。
お父さんはお兄ちゃんから引き剥がされ、遅れて駆け付けた駐在さんは部屋の惨状を見て驚愕していました。


205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:32:58 ID:yGMN8B1w0

二人とも応急処置を受けながら救急車の到着を待ちましたが、
到着するまでの間にお兄ちゃんは周りの人たちにいくら呼びかけられても最後まで反応することはありませんでした。
それから警察の方々から何度も取り調べを受け、私が犯した二件の罪は故意的に人を傷つける目的ではなく、
私とお兄ちゃんの身を守るために行った正当防衛という形で片付けられました。

家でお母さんを刺した事件は私の当時の記憶が不鮮明であることと、事前にお父さんがしていた説明の方が辻褄が合うことでそっちを優先され、
不本意にも親想いの娘が殺人未遂犯の母親を擁護する証言として処理されてしまいました。
お母さんとお父さんへの処罰は聞かされていませんが、たぶんしばらくは会えなくなると思います。
けれど、私はいけないの子なので何から解放されたような爽やかな気分になれました。


遠く離れた都会の便利さが恋しくなりますが、家主を失ってしまっているのでお別れです。
朝ごはんを食べ終えて食器を洗い、お釜に残ったお米で塩味のおにぎりを作ります。
作れるだけのおにぎりをバスケットに詰め込み、氷を水筒に入れてお茶を注ぎ口から注入します。
蓋を閉めて朝のドラマに呆けるお祖父ちゃんに行ってきますと声をかけ家を飛び出しました。
炎天下前から畑で汗水垂らして作業するお兄ちゃんに会いたくて、掛ける足を早めました。

おわり


211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:38:44 ID:QqE0p39c0



次回からは会話形でよろしく


212: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16 20:38:49 ID:fCbP4SrB0

乙。良かったよ

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