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1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:07:34.42 ID:BNFIuGZw0

立ったら書く



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:11:50.34 ID:yGMN8B1w0

>>1
代行乙です


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:14:04.03 ID:yGMN8B1w0

プロローグ

躊躇いがちに妹はすごく気持ちよかったのと言った。
そうかと答えて妹の頬を優しく撫でる。
頬から手を放すと毎回決まって胸の奥がチクチクと刺されるような気分になってしまう。
越えてはいけない一線があるのは知っているし、それを越えてしまった瞬間は自分でもちゃんと自覚があった。
看過できない過ちを何回繰り返したかなんて覚えていない。
ただ、妹と二人でしていることは世間体的にも道徳的にも決して許されるべき行いではないというのは重々承知の上だった。
今までも間違った優しさと自己満足な偽善を満たすために常識から目を背けながら妹との異様な関係を続けてきた。
誰からも愛を教えてもらえなかった妹の為に。
誰からも優しさを教えてもらえなかった妹の為に。
苦しい思いさせて「ごめんな」と謝ると、「お兄ちゃんは悪くないから謝らないで」と泣きそうな声で言われた。
10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:15:03.84 ID:CY7xfUhSO

げんふうけい?


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:24:31.78 ID:yGMN8B1w0

>>10
げんふうけいさんじゃないですごめんなさい。
クリスマスのプレゼントで泣かされたのは俺だけじゃないよね。



一口大の大きさに切り分けられた胡瓜の一つをつまんで齧ると、さっぱりとした塩と水気が咥内を潤した。
並び始めた朝食とニュース番組を交互に眺めていると、
「お兄ちゃんおはよう……」
眠たげな目を袖でこしこしと擦りながら妹が寝室から出てきた。
「あら、おはよう。よく眠れた?」
台所に立つ視界外からの祖母の声に驚き、ぴくりと体を止める。
「う、うん。眠れたよ」
心配そうにちらちらと俺に視線を送るが、祖母のことだから単に朝のコミュニケーション程度にしか思っていない。
鳶に見つかった子リスのようにびくびくと震える妹を手招いて隣に座らせる。
作業する祖母の背中ばかり気にする妹の口に不意打ちで小皿から摘まみ上げた胡瓜を突っ込むと、目を丸くして振り返った。


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:16:15.14 ID:yGMN8B1w0

赤くなって震える妹の手を取る。
「後始末はお兄ちゃんに任せていいから汚れた体を洗っておいで」
「……うん」
頭を撫でて慰めながら妹の持つ鉈を預かった。
妹は玄関から出て冷たくなった土の上に半分に裂けた鶏をそっと置くと、
家族を起こしてしまわぬように足音に気を遣いながらこそこそと廊下の奥へと消えていった。
家族として接してこないで妹の心を壊してしまった俺に壊れた妹を叱る権利なんてあるはずがない。
証拠を埋めるのに必要なシャベルを持ち出すために裏庭の物置小屋へと向かう。
壊したおもちゃの直し方なんて子供がわかるわけがない。
説教に怯える無責任な子供に残された行動は、これ以上壊れないように見守ることと壊れたことを誰にもバレないように隠すことだ。


12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:17:35.09 ID:kRXuP3mW0

真っ赤なボディ


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:19:03.45 ID:yGMN8B1w0

1 食卓

朝っぱらから蝉がうるさく喚き散らす。
一度でも目覚めてしまうと自然界の気温と騒音に苛まれ、習慣付いていた二度寝の結構は諦めざるえない状況になる。
それに加えて直射日光となっている東日が、目覚めよ少年。と、言わんばかりに顔を照らす。
矛先の無い不満を抱えながら布団から起き上がる。
「……布団だったな」
数か月経ても慣れない寝具で痛ためた腰をさする。
春夏秋冬を共に過ごしたふかふかのベッドとは、現在とある事情でお別れしていた。
長年連れ添ってきた相棒であるから毎朝起床してふと思い出すたびに恋しくなってしまう。
隣ですやすやと心地良さそうな寝息を立てる妹にはおそらくそんなこだわりは存在しない。
その気になれば季節問わず布団すらも必要としなさそうだ。


14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:21:27.05 ID:yGMN8B1w0

だからと言ってご就寝中の妹をぞんざいに扱っていいわけではないので、慎重に布団から抜け出るとなにやら美味しそうな香りが漂ってきていた。
部屋を出て食事の場となる居間に顔を見せると、祖母が台所で腕を揮っていた。
「あら、早起きさんね」
「寝坊して蝉に叩き起こされた。じいちゃんは?」
「おじいさんなら外で乾布摩擦してるわよ」
「は?」
日差しで焼き上がれる夏場に体を乾いた布で擦り上げる姿は想像上でも十分にシュールだ。
本人健康の為にしているつもりかもしれないが、俺には自ら死期を近付ける儀式にしか思えなかった。
「はい。料理が出来上がるまでつまんで待っててね」
小皿に盛られた胡瓜の浅漬けがことりとまるい食卓に置かれた。


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:25:49.83 ID:eQQ80Jt2I

エロスレかと思ったのに…


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:26:35.92 ID:yGMN8B1w0

驚くほどに旨いか。そうか、よかったな。
噛み分ける余裕を与えずに一切れ丸々押し込んだせいで頬がハムスターよろしく膨らんでいた。
「よく眠れたならよいことです。はい、お米」
少なめに盛られたお茶碗を妹に、俺には少し多めに盛られたお茶碗が出てきた。
食卓に並んだ三種のおかずを前にして、胸と頬を幸せで膨らませて目を輝かせる妹の頭からはさっきの不安なんか消え失せてしまったことだろう。
食べきれない量の白米を眺めて思案した後、茶碗を持ち上げて妹の茶碗の上に掲げてひっくり返す。
すぐ隣からひうっと小さな悲鳴が聞こえてきたが、気にすることなく適量の米を自分で盛り付ける。
目を白黒させて固まる妹の口に二つ目となる胡瓜を突っ込んで思考停止に追いやってから俺は朝食を堪能した。


19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:29:47.76 ID:yGMN8B1w0

2 縁側

「今日もどこかに行くのか?」
「山の中でも歩くか?」
「……」
「山だってさ」
祖父からの質問を受け流すように妹へとパスをするが、意地悪をされた報復にシカトを決め込んだらしく返事がなかったのでテキトーに答えておく。
うず高く積もられた米を律儀にも全部食べ切り、すぐにその場で不貞寝に走ったようだが何故だか生気を感じさせない。
そっか。と祖父も返すものの、朝のドラマを見ながら食事もしているので、どうせ会話を交わしたこともまともに覚えちゃいないだろう。
「山か……滑って川に落ちるなよ」
「それ一昨日も聞いた」
やっぱり覚えていなかった。


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:32:18.85 ID:yGMN8B1w0

生死の確認くらいはしないといけないので妹を指で突くと、死にかけた魚のようピクピクと震えたので放置する。
生き返らせるつもりで水をかければ、浴びせられたショックで天に召されそうだった。
暇潰しに庭へ出ると朝よりかは上空へ昇った太陽が早くも夏らしい猛威を揮い始めていた。
祖父が乾布摩擦ついでに水を捲いたのか、植木の青々と茂った葉は乗せた水晶で景色を反射させ、根本の地面は湿って色濃くなっていた。
「……山だな」
元気に育つ植物を見て最終決定をする。
もうちょっと木々に囲まれながら心を落ち着かせるのもいいかもしれない。
都会で産まれて都会で育ち、山とか海とかに出かける機会がなかったせいか、自然と触れ合う感覚にいい意味で慣れなかった。
「おにぃ……ちゃ……」
知らなかった生活環境の良さを再認識していると、居間から文字通り這い出てきた妹が縁側で俺を呼び力尽きた。


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:34:24.34 ID:yGMN8B1w0

「無理するなよ食いしん坊」
「お、おにぃうっぷ……おにいちゃん……ひどい……」
縁側の淵から上半身だけ庭に出して垂れ下がり、自ら真っ青な顔を逆さにしていたので、
訪れる惨劇を食い止めるために妹を抱えあげて膝を枕にして寝かしてやる。
「今日の散歩はお山さんだぞ」
「うん、お山さんだね」
「聞いてたのか」
「返事できなかったけど聞こえてたよ」
少しだけ顔色が好くなって真っ青なんだから、さっき返事させていればほぼ確実にマーライオンをしていた。
妹の血色が落ち着くまでの間、風で木が揺れ葉を擦り合わせる音と蝉が夏を謳歌する声に耳を傾けた。


23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:36:34.74 ID:yGMN8B1w0

時折妹のおでこを撫でてやると目を細めて嬉しそうにした。
「……ごめんな」
「なにが? ご飯?」
「そうだな」
他のことを謝ったのだが、脈絡にまったく関係ないので妹は気付けない。
空を眺めると引き千切られた後みたいな形状をした白い雲が風に乗っていた。
いくつも縦に重なる雲を追いかけるように流る小さな雲を見て目を細める。
全然関係ないものでも幻影が見えてしまうのは過剰に意識しているからだろうか。
「おにいちゃん」
「ど、どうした?」


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:36:37.32 ID:igGg0DeC0

しえ

一行あけてくれると読みやすいけど。


25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:40:40.74 ID:yGMN8B1w0

「なんで私がいるのに外ばっか見るの?」
ぷっくりと頬を膨らませながら抗議をされたので、またおでこを撫でて妹を満足させる。
ようやく気分が落ち着いたのか、んっと声を漏らして目を瞑り、きつい日差しと涼しい風のサンドイッチでお昼寝に移行した。

妹の額の上で手を往復させながら遠くの山を眺める。
ここの一帯は山に囲まれた盆地になっているので八方どこを見渡しても似たような風景しか拝めない。
三分も掛からずして膝上に頭を乗せた妹から穏やかな寝息が聞こえてきた。

横を向体を丸めて眠りこける妹に苦笑いをする。
妹との山登りが終わるまでは雲一つない晴天に恵まれ続けてほしいと柄にもなく空に願ってみると、ごろりんと妹が寝返りをうってそっぽを向いた。
それがお返事ですかお山さん。


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:43:09.10 ID:yGMN8B1w0

4 川

「水冷たいね」
「足元掬われんなよ」
「はーい」

靴を脱いでぱしゃぱしゃと川の水と戯れる妹を岸辺の樹木にもたれかかって観察する。
登山半ばに弱音を吐いて力尽きた妹におんぶをせがまれもされたが、途中に休憩を挟むなどしてなんとか目的地の小川まで辿り着くことができた。
体育以外の運動を犠牲にして知識を蓄えることにだけ体力と集中力を費やした都会産もやしっ子は階段を見るだけで体力をごっそりと持っていかれてしまうのが辛い現実。

ここまで来るのを日課にすれば、都会に帰る頃には肉体改造を施され脳みそまで筋肉に変わってるかもしれない。
「なんかそれはやだな……」
「嘘だよ」
俺だって嫌だ。


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:45:35.90 ID:yGMN8B1w0

でも何回か山に登っていた成果か、妹や筋肉が疲れたと主張する回数が確実に減ってきているのは実感していた。
もう十数回山にお世話になれば登山道に辿り着く前に妹が疲労を訴えることはなくなるだろう。
「そいやっ」
掛け声と共に裸足に蹴り上げられた水が小さな飛沫となって岸辺の乾いた草地に降り注いで濃いマーブル模様をつけた。

森の中を抜ける風が木々を揺らして自然に囲まれていることを意識させてくれる。
高く伸びた樹木が枝を広げてくれているので、どんなに風に靡かれようとも根本に座っていれば木陰から追い出される心配はない。
目を閉じて登山で疲れた体を休めると、川のせせらぎと場所を選らない蝉の自己主張に混じり、名の知らない鳥が何処かで鳴いているのが聞こえてくる。

沢山の人や物で溢れていた故郷に住んでいたときと比べると多少音に敏感になった気がするが、
祖父母の暮らす田舎で耳に入ってくる音はどれも総じて落ち着きを与えてくれているようだった。
目を開けて川の中で遊ぶ妹を見る。


28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:48:15.72 ID:yGMN8B1w0

今この場にいるのは俺と妹の二人だけだ。
仮に今、妹が動物を殺したときと同じ衝動に駆られてしまった場合、近場に凶器になりそうなものは無いけれど俺を手に掛けたがるのだろうか?
そんな疑問がふと頭の中をよぎる。

ハムスターから始まった妹の狂気は、現段階では鶏になっている。
回数を増やし罪を重ねるたびに、妹が持ち帰ってくる生き物は徐々に大きくなっていた。
もし狙う対象に生物に人も含まれているとしたなら、本当に越えてはいけない一線に足を踏み入れるのは遅かれ早かれ時間の問題だ。

「お兄ちゃんも一緒に水遊びしようよ」
「俺は服を濡らしたくないから」
「っそ」
つまらなさ気に返事をしてぷっくりと頬を膨らませた。


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:50:42.16 ID:yGMN8B1w0

ぱしゃりと蹴られた水は小さく跳ねて川の中へと消えた。
万が一妹に刃を突き付けられたとき、妹のために自分の身を守れるのだろうか。
腕力や脚力などの身体的な話に限れば簡単に攻勢を逆転できる自信はある。

しかし、頭のどこかでは妹に恨まれることを贖宥状とし、命を差し出して妹の気が晴れるならば贖罪にしてもいいと考える自分もいる。
もしその時がきてしまったら、たぶん俺は――
「お兄ちゃん。取れた」
「と、取れたって何が?」

妹の声で深みに嵌った思考が途切れ、声のした方に慌てて目をやる。
見て見てと小川の中央でせがまれるが、掲げられている手は両手で完全に隙間なく塞がれていてここからじゃ確かめようがない。
「取れたってお前……」


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:52:58.27 ID:yGMN8B1w0

魚ではないよな?
えへへと笑いながらばしゃばしゃと水しぶきを上げて駆け寄る妹。
両手の中に捕られた成果を早く見せようと慌てて足を動かし、
「ひゃうっ?!」

盛大な波と音を立ててドジをかました。
無邪気に遊んでいたときよりも何倍も大きい波紋は川の流れですぐにかき消されたが、弾けた大粒の飛沫がいくつか俺の顔にあたる。
服に水が染み込んでシミを作ったが、全身を濡らしたことで思考するのを放棄してぐったりと川に横たわる妹よりかマシだろう。
詰めの甘い妹を抱きかかえて陸上げして濡れた服を剥ぎ取る。

服は通気性を考慮して選別した枝に引っ掛け、下着姿になった妹は日光で焼けた岩で日干しにしてやった。
あーとかうーとか呻いているが、自業自得なので放っておく。


32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:55:20.29 ID:yGMN8B1w0

家に帰る頃にはいい感じに焼けているに違いない。
騒がしかった音が消え、川辺が一層穏やかになった。
「お兄ちゃん」
「どうした?」
「私……戻らないとダメ?」

「戻りたいか?」
「……」
「戻りたければ協力する」
「……戻りたくないって言ったら?」


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 14:57:44.99 ID:yGMN8B1w0

「協力する」
「……そっか」
のそのそと背後で妹が動いた。

全てを諦めて人間性を否定され続けたあの家に戻りたいのか、何も傷つけずに自分を保てていた精神状態に戻りたいのか。
戻りたいという言葉がどちらを指しているのかは俺には分からないけれど、俺は協力できる最後の瞬間まで妹に手を貸し続けると誓った。
小さく鼻をすする音が聞こえてくる。

妹を家から連れ出すことで、救えたと思っていたけれどそれは救済でもなんでもなかった。
それだけでなく、妹の心に巣食う闇は確実に俺の心も蝕んでいる。
「寒いね」
「そうだな」


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:00:07.78 ID:yGMN8B1w0

冷え切った心を暖めるのに冷えかけた心は向かない。
ただ、冷え切った心が温度を忘れて凍りつくまでの延命くらいの役目は持てる。
その延長させた時間できっかけがつかめ
「くしゅん」
「ああ、寒かったのか」


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:02:29.40 ID:yGMN8B1w0

5 寝室

赤くした顔の半分を布団に潜して隠す妹のおでこを優しく撫でてやると嬉しそうに目を細めた。
「寒い」と、震える妹の顔色に祖母は「一晩体を暖めて休めば治るわね」と言い切ったので、これから半日は安静にさせないといけない。
「ありがとう」

「次は川の中に飛び込むなよ」
「うん。暑いね」
「ポカリ買っておいたから好きな時に飲め。それと汗でパジャマが濡れたら億劫でも着替えること」
「はい」

妹の返事を聞き届けてから寝室を出ると祖母が台所でお粥を作っているのが見えた。
一度お釜で炊いた米をぐつぐつと煮込んで作っているようだ。
「おんぶしてきて疲れたでしょ?」


36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:05:11.66 ID:yGMN8B1w0

「軽いから気にならなかったよ。それよりも整備された石段を踏み外すんじゃないかって心配で気にしてる余裕なかった」
「そうかいそうかい。あの川で風邪を引いたなんて聞くのは何十年ぶりの話だろうね」
「何十年ぶりって……」
懐かしむような祖母の言葉に驚いた。

前例からそんなに時間を経ていたことよりも、今までに妹と同じドジをした人がいることに驚愕だ。
「そうだ。お夕飯何を食べたい?」
「なんでもいい」

「なんでもいいは困るわよ。何か考えなさいな」
献立をリクエストを催促されても料理を作った経験のない俺が考えて咄嗟に出てくるレシピなんてハンバーグや餃子くらいだ。
それを頼んでもいいのだけれど、祖母が日本料理以外を作っている姿が想像できないので黙っておく。


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:08:05.54 ID:yGMN8B1w0

「買わずに作れそうなものは?」
「作れそうなものねえ……冷蔵庫見てもらえる?」
野菜室を開けて目についた順で野菜の名前を読み上げる。

「れんこん、にんじん、ごぼう……煮物?」
「煮物ね」
煮物を注文されて煮える米を観察しながら祖母が鼻歌を歌い始めた。
聞いたことのないメロディーがとても時代の差を感じさせた。

何もすることがなくなり、居間でテレビを眺めようかと考えたが、
妹の睡眠の妨げになりそうだったのでそのまま縁側に抜け出て夕暮れに映える山々を拝むことにした。
茜色の空の下で茂った木々を一望し、時代の流れから取り残された田舎特有の情緒を味わう。


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:11:18.23 ID:yGMN8B1w0

しかし、満足できたのは視覚的な部分だけであって、いくら待てども夕方の涼しい風が吹いてこないうえに、
夏の風物詩の血を吸いたがる虫がとても耳障りな羽音を奏で周囲を飛び回るのは癪に障る。
綺麗な景色ではあるのが体を犠牲してまで見続けたいわけでもないので蚊に食われる前に居間に退避して網戸を閉め切り侵入を防ぐ。

「ほんっとうに暇だ」
滅多に言わない独り言が出てしまうくらいに暇だった。
畳みに寝ころがって天井を見上げる。
視界の隅に入った本棚には自分好みの書物が並んでおらず、家を出るときに参考書の一冊でも持ってくればよかったと本気で後悔する。

横になり生産性の無い無価値な時間をだらだらと過ごすのは主義じゃない。
もうぐっすりすやすや眠っているに違いない妹の寝顔を見ても生産するものはないけれど、
今できる一番有意義な暇潰しがこれ以外に思いつかなかったので結局家の中を一周しただけで再び寝室に戻ることにした。


41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:15:29.81 ID:yGMN8B1w0

襖を数ミリ開けて様子を確認すると、ポカリのペットボトルに直接口を付けて豪快に呷っている最中だった。
妹が飲める量を考えればわざわざ両手で持ち上げるよりも元から準備されているガラスコップを使った方が遥かに楽なはずなのに
どうしてわざわざ苦難の道を選んだのだろうか。

「行儀よくコップ使おうか」
襖を開けて窘めてやるとペットボトルの注ぎ口を加えながら頷いた。
ポカリを飲み終えてきゅぽんっと口を離し、ヤドカリのようにいそいそと布団の中に籠る。

「お腹空いたか?」
「空いた」
「お祖母ちゃんがお粥作ってたからゆっくり食べなよ」
「ふーふーしてくれる?」と甘えられたけれど、不思議な恥ずかしさがあるので断っておく。


42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:18:06.54 ID:yGMN8B1w0

「そんなものは都市伝説。お姫様抱っこと白馬の王子様がこの世に存在しないのと同じだ」と言うと、
「ふーふーはあるもん」
むくれて布団を頭まですっぽり被ってしまった。

頭がありそうな場所を撫でてやると、むふぅと鳴いたのですぐに和解は成立した。
「そんな頭まで潜ると暑いですよ。はい、出来立てのお粥。気を付けてね」
祖母が鍋敷きと一緒にお粥の入った鍋を持ってくると、警戒を解いた亀がのそりと首を出す。

目の前で塩の入った小瓶を何振りかした後に俺に小さめのスプーンが手渡された。
「熱いからお兄ちゃんが冷まして食べさせてあげてね」
「え?」
「ほらね」


44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:20:44.22 ID:yGMN8B1w0

なにが『ほらね』だ。
布団から起きだして勝ち誇ったように胸を張る妹を祖母がクスクス笑いながら部屋を出て行った。
「都市じゃないもんね」
諦めて覚悟を決めた俺はその言葉に妙に納得して、スプーン鍋に突っ込み小盛り程度掬い上げる。

息を吹きかけてから口に運んでやるとまだお粥が熱かったのか俯いて耐えるようにぷるぷると体を震わせた。
「熱かったか?」
「そうじゃないけどたぶん熱かった」
それからも顔を赤くして震えながら食事をする妹が可笑しかったので、満足するまで付き合ってやることにする。

食事を終えた妹の口元をティッシュで拭ってやると大層嬉しそうな笑顔を向けられて悪い気はしなかった。
「お兄ちゃんありがとう」
「ちゃんと寝ろよ」
隣で寝そべり妹が眠りについたのを確認してから、俺も夕飯までと思いそっと目を閉じた。


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:23:51.01 ID:yGMN8B1w0

6 夢

「なんでこんな問題が解けないんだ!」
勢いよく投げられた教科書が妹の体に当たる。
ドサッと落ちた足元には、いくつかの小さな水たまりが出来ていた。
妹が説教をされるのは当然だ。

伴わない努力しかできないやつに同情のしようがない。
6年生にもなって因数分解ができないなんて兄として恥ずかしい。
妹は僕と同じ塾に通っていた。

正確には僕が最近まで通っていた塾だ。
いくら問題を解いても似たような設問の復習しかさせてくれなくなったので、
あまりの無意味さに僕は妹と入れ替わるようにして塾を辞めた。


46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:26:14.37 ID:yGMN8B1w0

そこでの妹の成績は下から数えた方が早い落ちこぼれだった。
「面汚し!」
お母さんが妹の頬を張る。
テストの点数も満足に取れないのに友達の家に遊びに行きたいなんて甘えているとしか言いようがない。
会社側が社員の仕事の達成度に応じて相応の報酬を払うのと同じだ。

怠惰ばかりの人間に誰が給料を払いたがるだろうか。
情けなくも妹は形だけで身に付いていない努力ばかりを主張して両親に前借りを要求している。
たとえ義務教育であろうとも親が通わせてくれている現状で、あまつさえ、給食費だって出してもらっているのだ。


48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:28:54.61 ID:yGMN8B1w0

そこまでされてもらいながら家の規則が気に入らないと秩序を乱して泣くのであれば、そのお願いを聞き入れてくれる家を自分で探し出せばいい。
牧場で堕落した日々を過ごしたシマウマがいきなりサバンナに追い出された時、身を守るためにいったい何ができるのか。
単身でライオンの群れに紛れ込み、食べないでくださいと懇願して、もし見逃してもらえるなら親だってここまで強く言わない。

弱肉強食(サバンナ)の世界で飲み込まれる側に回ったモノに勝ち目はないと知っていて危惧している親の心配に、浅はかな妹は気付けていない。
父親の怒号と母親の叱責に混じり、妹のすすり泣く声が聞こえてくる。
家族の中で間違っているのは妹だ。

ただやればいいだけの勉強から逃げ、お友達なんかに現を抜かしたせいで痛い目を見ている。
因果応報でしかない悲劇のヒロインは自分は可哀相なのだと涙を流している。
頭がどうかしているとしか思えなかった。
いつまでたっても泣き止まない声に腹が立ち、その場で立ちすくむ妹の髪を引っ張った。


49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:31:59.07 ID:yGMN8B1w0

「女の子だから髪の毛を伸ばしたい」
勉強の邪魔にならないならと唯一親が折れて許したおしゃれだが、僕はそれすらも気に食わなかった。
これもただの給料の前借でしかない。

妹には存在しないはずの権利を親が与えたことに強い憤りを感じていた。
妹の甘えが許されるということは、正当な報酬を貰うために積み上げてきた僕の努力を否定するのと同義だからだ
後ろに体を引かれた妹が無様に尻もちをつく。

驚きで涙が止まっているようだけれど、痙攣した咽喉が変な声を出していた。
妹の顔の造りはいいと思う。
贔屓目抜きでもそれだけは恵まれていると認める。
ただそれだけだ。


50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:37:45.46 ID:yGMN8B1w0

顔がいくら良くても知識が相当していなければ残念ながら本当の『面汚し』でしかない。
妹の襟首を掴んで強引に引き寄せる。
怯えて震える目を覗き込む。

「お前が恥ずかしい」

一言で我慢した僕は偉いと思う。
手が出てもおかしくはなかったけれど、妹のただ一つの取り柄にこれ以上傷がつくのは可哀相なので僕は我慢をしてあげた。
僕の言葉をどう捉えたかは知らないが妹は完全に泣き止み、僕の顔があった場所を眺め続けていた。
説教中に惚けるなんて度胸のある馬鹿だ。


51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:42:09.56 ID:yGMN8B1w0

こんな愚者とまだまだこれかも一緒に暮らしていくなんて僕にとっては苦行でしかなかった。


目が覚めるとあたりはすでに暗くなっていた。
寝汗で服が濡れていてとてもじゃないけれど寝覚めとしてはいい気分とは言えない。
変な夢を見たこともあり、気分転換に涼しい風を求めて縁側に出る。
だいぶ長い時間寝ていたらしく綺麗な星空の中央で満月が淡く輝いていた。

元々の気温が高いせいで夜風はぬるいものだったが、それでもないよりはマシだ。
寝室に戻って部屋の隅に積まれた衣類の中からシャツを一枚引っ張り出す。
着ていたシャツと交換した後、小腹が空いたので居間へ行くとラップのかかった夕飯が置いてあった。
ご丁寧にも二人前並んでいたので、片方は妹分だ。


52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:44:49.68 ID:yGMN8B1w0

お粥の分も計算しているのかどの料理も少な目に盛られていた。
唯一並んでない主食を盛りに茶碗片手で台所へ行くと、珍しく流し場の下の収納スペースが片方だけ開いたままになっていた。
多少神経質な祖母が気付かないわけがない。

大方小腹を空かせた祖父が何かをつまむために保存されている缶詰を漁ったまま閉じ忘れたのだろう。
いちいちしゃがむのも面倒なので扉を蹴って閉める。
ガチャガチャと中で包丁がぶつかり合う音がして、

俺は寝室に走った。

扉を開け妹が寝ていた布団を見る。
少し盛り上がっていて杞憂かと安心しかけたが、掛け布団をめくるとそこに妹の姿はなかった。


53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:48:54.45 ID:yGMN8B1w0

寂しくても完走が目的だから!
完走が目的ですから!


54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:52:35.29 ID:yGMN8B1w0

7 夜

油断していた。
鳴らしたことのない目覚まし時計を掴み時刻を確認すると針は零時過ぎを指していた。
いつもは三日置きくらいで家を出ていたうえに、今日は風邪だってひいていた。
二日連続で妹が動くことはないとまで考えて居たわけではないけれど、危機感を持っていなかったのは事実だった。

いつも妹が起きだすのは日付が変わる前だから、おそらくまだ周辺をうろついていると推測する。
ただ、これも習慣になっている行動を予想しただけで自信も確証もない。
常温で放置されてぬるくなった飲みかけのポカリを持ち出して玄関で靴を履く。

靴のかかとを踏み潰して外に出るが、もちろんそこに妹の姿はない。
慌てて家の正面を横切る道路に飛び出そうとして足のかかとが浮いて転びそうになったので、かがんで靴を履きなおす。


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:56:09.72 ID:yGMN8B1w0

サポート役が慌ててたらどうしようもない。
俺は妹を止めるためではなく成功の手助けをするのだから。


最初に犠牲になったのは我が家のハムスターだった。
妹が一目惚れして可愛いと言っていたのを覚えていた父親が日頃の成果のご褒美として誕生日に買い与えたのだ。
妹は怒られた日はいつも籠の前に行き怒られたことをとその内容を欠かさず報告していた。

失敗談を逐一聞かされるハムスターの身になってみろと思っていたのを覚えている。
そのハムスターがある日籠の中で息絶えていた。
外傷はなく見た目では判断できないので病気で死んだものだと思っていた。
その数日後に俺が誕生日祝いで買ってもらったインコが死んだ。


57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 15:56:32.59 ID:2jrbROHM0

見てるぞ


58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:00:43.75 ID:yGMN8B1w0

>>57
ありがとう


学校から帰ってきていつものように餌を与えようと檻を覗くと、首から上を失ったインコが血を流して横たわっていた。
両親は共働きで家に帰ってくるのは夕方以降。
もちろん親を疑うわけではないが、それでも犯人を絞るには消去法が一番確実な手段だ。

声にならない怒りを抱き、犯人がいるであろう部屋の扉を開けるとやはり妹が座り込んでいた。
怒鳴りつけようとしたところで、妹が振り返り「ごめんね」と謝った。
その表情を見て頭の中の熱が急速に冷えていった。

「もしかしたらお兄ちゃんの鳥さん殺しちゃったかも……たぶんこの鋏でね、チョキンって……」
「ほら、これ」と涙を流しながら微笑む妹が見せてきたのは工作用の小さな鋏と、手のひらで転がるペットの頭部だった。
異様な光景に気持ち悪くなってすぐさまトイレに駆け込んで胃の中のものを全部吐き出した。


59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:00:51.92 ID:etqiT8Rz0

これ面白いの?


61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:08:05.20 ID:yGMN8B1w0

>>59
地の文練習中で文末がワンパターンなのは自覚してる。
楽しみたい場合は文章力欠乏症に目を瞑って脳内補正でお願いします。


60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:04:06.55 ID:yGMN8B1w0

そのとき、ようやくにして家にいる妹が、俺の知っている妹ではなくなっていることに気が付いたのだった。


思い出して吐き気が込みあげる。
人気のない道路を駆けずり回り、どこかにいるはずの妹を必死で探す。
まばらな街灯を頼りに足元を確認しながら転がる石を避け、とにかく動物がいそうな民家を一軒一軒見回る。
家に上り込んで誰かを襲うなんてものはまだ起こらないと思ってはいるが、それでも万が一の不安が拭い切れない。

先日二人で狙った獲物は小さい隙間から潜り込んで手に入れた出荷間近の鶏。
段々と大物に手を出していくとすれば、次に手を出すであろう生物の種類は限られてくる。
玄関先に置いてある小屋の有無を確認しながら暗い夜道を走った。
額から流れ出る汗を袖で拭いながらようやくにして見慣れた小さな背中を見つけることができたのは、家から出て数十分は過ぎた頃だった。


65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:11:18.94 ID:yGMN8B1w0

8 夢

「なんでこんな問題が解けないんだ!」
パパが怒って私の教科書を投げつけてきた。
何分も前からパパが怖くて泣いていたせいで、足元には涙で水たまりが出来ていた。
私がパパに怒られるのは私が悪いから。

だってママもお兄ちゃんもパパを止めてくれない。
まだ習っていない問題を出されて答えられないでいると、みんなが不機嫌な顔になる。
なんでもできるお兄ちゃんに憧れて同じ塾に行ったけど、お兄ちゃんはつまらないと言ってすぐにやめてしまった。


66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:14:09.00 ID:yGMN8B1w0

残された私は難しい問題とにらめっこするだけ。
「面汚し!」
お母さんが私の頬をたたいた。
みんなと同じことがしたかったらみんなと同じくらいにならないとダメだって。

学校がお休みの日はお勉強の日だって。
「社会に出てる人はお仕事を頑張らないとお金がもらえない」って、パパが言っていた。
頑張ってない私にお給料は渡せない。
国が決めた義務教育でもパパとママがいなければ通うことができない。


67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:15:33.25 ID:lmjpiuTt0

今どれくらい?半分くらいはいったのかな


69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:20:33.39 ID:yGMN8B1w0

>>67
もう少しで折り返し地点。


クラスの可愛い女の子が伸ばしていたから、私も可愛くなりたくて真似っこをした髪の毛。
鏡を見るたびにクラスの人気者になれた気がしてとても嬉しかった。
頑張れていない私がママにおねだりするのはとてもずるいことだと知っていたけれど、どうしても伸ばしてみたかった。

パパとママは何も言ってくれなけど、お兄ちゃんは興味なさそうながら可愛いって言ってくれた。
それだけしか言ってもらえなかったけど、なんでもできるお兄ちゃんに褒めてもらったのが嬉しくて一日中うきうきできた。
後ろに引かれた勢いでお尻を床に打ってしまった。

びっくりして涙は止まったけど、泣き続けたせいで咽喉がひくひくと落ち着かない。
女の子座りでお兄ちゃんを見つめると、いきなり襟を掴まれてお兄ちゃんの顔に私の顔が近付いた。
お兄ちゃんは誰の敵でも味方でもない。
だから私にひどいことをしないから味方だと思ってた。


68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:16:55.05 ID:yGMN8B1w0

お昼ご飯が食べられるのはパパとママが働いているから。
働いている人に感謝できないなら出て行っていい。
出ていけないなら家の規則に従え。

社会は自分の世話がまともできない人には優しくない。
パパとママは私が社会においてけぼりにされないために敢えて厳しく育ててる。
パパの怒鳴り声とママの怒り声が怖かったけど泣くのをやめようと一生懸命我慢した。
お兄ちゃんができているのに私ができないのはおかしなこと。

私だけお姫様みたいに特別扱いしちゃいけない。できないならできるまでやるのが当たり前。
頭では分かっていても目からはぽろぽろと涙が溢れてしまう。
パパとママに睨まれて泣いていると、いきなり後ろから髪の毛を引っ張られた。


70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:23:49.69 ID:yGMN8B1w0

なのに、このときだけお兄ちゃんの目がすごく怖かった。
「お前が恥ずかしい」
それだけ言ってお兄ちゃんはまた部屋に戻っていった。
お兄ちゃんは私の敵じゃない。

でも私のことを恥ずかしいと言った。
どうして?
お兄ちゃんに言われた言葉で頭の中がごちゃにごちゃになって、いつのまにか涙も咽喉の震えも止まっていた。
何も考えられずにただ天井だけを見ていると、またパパとママが怒り出しました。


72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:26:36.98 ID:yGMN8B1w0

また怒鳴ってるみたいだけどもうどうでもよくなってしまった私に、パパとママの言葉は入ってこなかった。
そっか……出来の悪い私はまたこれからもみんなに迷惑をかけて嫌われながら生活していくんだね…………。
ごめんなさい。


目が覚めるとお日様はとっくに沈んでいました。
汗をたっぷり吸ってびしょ濡れになったパジャマと同じくらいに顔も涙で濡れていたようです。
寝てる間に泣いていたのを知られると恥ずかしいからお兄ちゃんに見られてないといいな。

お兄ちゃんは私が可哀相だったから傍にいてくれるようになりました。
私の為ならなんでもすると約束されたけど、けれどそれが私には本当の兄妹らしい関係に思えなくてとても寂しく感じました。
濡れたままだと体が冷えてしまうのでお部屋の隅でパジャマを着替えます。


73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:29:08.86 ID:yGMN8B1w0

体調はすっかり良くなりましたが、変な夢を見てしまったので心の中がすごくもやもやしています。
隣で寝ていたお兄ちゃんに近寄りおでこを撫でるとううんと唸って寝返りをうたれました。ひどい。
居間に行くと二人分のお夕飯が置いてあったので、お茶碗を持ってお米を盛りに台所へ行きます。
冷蔵庫の中が気になったので扉を開くとやっぱり長い胡瓜が丸められ、袋の中で浸されていました。
お兄ちゃんの分も用意してあげたくて、流し場下の扉を開けて使いやすそうな包丁を選んで手に取り

犬を殺していました。


74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:29:59.06 ID:3ubz4nw1O

今北だけど支援


75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:32:57.11 ID:yGMN8B1w0

9 寝室

お兄ちゃんが部屋に帰ってきました。
上の服を着てないのは、犬と一緒にどこかに捨ててきたからです。
部屋の隅に積もられた選択済みのシャツを選んで手に取る背中に向かって、「ごめんなさい」と謝りました。

「お前は悪くない」
お兄ちゃんはそう言ってくれるけれど、私は償うべき過ちを犯しています。
悪いことをしたくなる衝動を抑えられず、ふとしたきっかけですぐに私じゃない私が起きてしまう。
苦しさと悔しさと悲しさと申し訳なさで頬を涙が伝いました。

お兄ちゃんは私を抱きしめて頭を優しく撫でてくれます。
なんでお兄ちゃんは私の味方でいてくれるの?
どうしてお兄ちゃんは私の為に悪いことをしてくれるの?


77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:35:16.88 ID:yGMN8B1w0

お兄ちゃんまで巻き込んでしまって、私は本当にどうしようもない出来損ないだと思いました。
「絶対に自分を責めるなよ」
私の心を見透かしたようにお兄ちゃんが頭の上から声をかけてくれますが、動き始めた思考は底を目指して深く沈んでいきます。

「お前は追い込まれて追い詰められて、それでもどうにかして生きようとするために何かを傷つけてるんだ」
だから私は悪くないそうです。
でも、それは違います。
私が悪い子だから。

いけない子だからいけないことだと知っていてもこの手で罪を重ねるのです。
「妹は家族の中で誰よりも弱かったけど、誰よりも強かった。父さんや母さんや俺よりもずっと」
お兄ちゃんの優しい言葉は私の考えていることと正反対でした。


78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:40:00.47 ID:yGMN8B1w0

慰めるための抱擁を私が逃げ出せなくするための束縛だと捉えてしまいます。
「俺は妹を信じてる。だから絶対に戻してみせる」
言葉の一つ一つが私の心に突き刺さりました。

私に伝えようとしている言葉は裏返した意味でないと頭が受け入れてくれませんでした。
支えになってくれるお兄ちゃんは、もしかしたら私を貶める機会を窺っているかもしれない。
だって私にはお兄ちゃんが必要だけど、お兄ちゃんに私はいらないから。

近付けば近付くほど、頼れば頼るほどありもしない妄想が心を侵していきました。
パパとママに好かれていたお兄ちゃんがどうして落ちこぼれの私に手を貸す必要があるの?
道の分からない私の手を引いてどこに連れて行こうとしてるの?
私を助けたいと言うけれど本当はお兄ちゃんは――


79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:40:49.63 ID:dII+suvX0

げんふうけい(笑)


82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:45:12.60 ID:mqa2jnjD0

>>79
げんふうけいの人はもっとあっさりした文章を書く気がする

てかげんふうけいもだいぶ知られているんだな


80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:42:46.37 ID:yGMN8B1w0

「ずっとお前の味方だからな」
自分は最低だとつくづく実感しました。
いつも片時も離れずに傍に居てくれた人に対してとてもひどいことを考えていたと思います。

冷たいことしか考えられなくなってしまった汚れた私をいつでも躊躇なく抱きしめてくれるお兄ちゃんが好きだから。
他の誰よりもずっと信頼できるお兄ちゃんだから。
だからこそ裏切られた時の予防線として、やっぱり心がお兄ちゃんを遠ざけてしまうのでした。


81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:45:01.66 ID:yGMN8B1w0

10 川

お兄ちゃんは祖父に連れられて畑仕事に行ってしまいました。
「継ぐなら体で覚えろ!」と言われ「田舎で暮らせるか!」と酷い返しをしていたけれど、その抵抗も甲斐なく半ば強制的に連行されました。
お祖母ちゃんが笑ってたから、きっとあれはお祖父ちゃんの本心じゃないでしょう。

私も笑って見てたのであの返事はお兄ちゃんの本心じゃないはずです。
お祖母ちゃんに負けていられません。
お祖父ちゃんの後を不満を言いながら付いて行くお兄ちゃんを見送った後、私は暇になったので外に出ることにしました。

一人だと迷子になるのが怖くて、村の中を流れる川付近をぶらぶらする程度にとどめます。
おばあちゃんからもらった麦藁帽子を少し持ち上げて空を眺めますと二羽のツバメが楽しそうに追いかけっこしていました。
番かな?
楽しく飛び回る姿にしばらく見とれます。


83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:47:38.55 ID:yGMN8B1w0

私もお兄ちゃんとあんな風に広いところで一緒に駆け回ってみたいなあなんて――
「隙ありぃ!」
「ひゃうっ?!」

いきなり大声と共に腰に抱き着かれる感触があり、大空に夢中になっていた私は意図せず素っ頓狂な声を出してしまいました。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「ど、どうしたのってどうして?」
抱き着いてきたのは小学校低学年くらいの女の子でした。

この子がお昼間際に道端をうろついているということは今日は休日なのかな。
平日休日問わずしてお兄ちゃんと気兼ねないスローライフを満喫していたので、曜日の感覚が無くなっています。
「空に何かあるのかなと思って」


84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:50:40.69 ID:yGMN8B1w0

腰にしがみ付いた女の子は同じく空を見上げました。
私は呑気に空を見上げるなんてことをしないので視界の端から端まで広がる青空を見るたびに言葉では言い表せない感動を覚えます。
けれど、ここで生まれ育った住民の方々はとうに見慣れた風景になっていそうです。

狭い空すらも見上げる必要がなかったあの頃と広い空を見上げる余裕が生まれた現在を比べると私の中で何かが変わってる気がしました。
けれどそれはただ忙しくなくなっただけでした。
「何かあったの?」

口を開けて空を仰ぐ女の子に訊ねられたので、
「鳥さんがいただけ」
「鳥さん?」
見たままを伝えます。


85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:53:40.30 ID:yGMN8B1w0

私の背丈は順調に伸びたとは言えませんが、私の腰の高さに肩がくる女の子もなかなかのミニチュアサイズでした。
「あ、次郎丸と肋之真」
「名前あったんだ」

「今つけた」
「……」
高齢化が進んだ地域だと幼い女の子のネーミングセンスにも影響が及ぶのを学びました。
すぐに「ろくのしん」とか出てくるようになってしまったのがとても不憫です。

「片方くらいは女の子の名前がよかったな」と言うと、
「じゃあツネ」
名前とかどうでもよくなりました。


86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:56:08.83 ID:yGMN8B1w0

女の子と仲良く手を繋いで川に沿って流れとは逆の方向に歩いてきます。
日光を反射してきらきらと綺麗に輝く川面は見惚れるものがありました。
意地悪な太陽から逃げる様に日陰に入れば、すぐに涼しい風がワンピースの胸元と裾から入ってきて熱と汗が若干引いていきます。

何回目かの休憩で木陰になっている塀に寄り掛かると、
「お姉ちゃんどこ行くの?」
「え? 案内してくれてたんじゃないの?」
ううんと首を振られました。

「あれれ?」
私もてっきり女の子に連れられているものだと思い込んでいたので、帰りのことなんて全く考えずに景色だけを堪能していました。
土地勘なんてないですよ?


87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:58:30.45 ID:yGMN8B1w0

「どうしよう……」
「戻る?」
「そうだね。戻ろっか」
女の子の提案に賛成して今度は素直に手を引かれて歩きます。

来た道を逆に辿っていくだけですが、いつの間にか川沿いを離れていたので多少帰り道が心配になりました。
畑や田んぼや作業小屋はどこにでもあるようですけれど、肝心の人影はありません。
人がいないのは寂しくて私を不安にさせました。

私たちが仲良く村から離れただけなのに、何故かみんなに置いてけぼりにされたような気分になってしまいます。
「あ」
「あ……」


88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/11/16(金) 16:59:11.16 ID:t7C+I0JM0

シャアかよ







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>>赤くなった妹が「気持ちよかった」と兄に言うお話 ~その②~
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